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「Akina Nakamori~歌姫ダブル・ディケイド」デビュー20周年インタビュー

2002年発売のセルフカバーアルバム「Akina Nakamori~歌姫ダブル・ディケイド」についてのインタビュー記事(雑誌「WHAT’s IN?」より)です。

先日の「SONGS」でのインタビュー映像にもありましたが、中森明菜さんのこだわりが垣間見れるインタビュー記事となっています。少々長くなりますが、興味のある方は読んでみて下さいね。

少女から円熟した大人の女性ヘ――今年デビュー20周年を迎えた中森明菜。
当時と変わらず“核”として存在し続けるもの、それは“歌”に対する純粋な思いと真摯な姿勢。
記念年のラストを飾るセルフ・カバー・アルバム『歌姫ダブル・ディケイド』から、現在の彼女を探る。
その曲が持つ“生命”を優しく包み込むように、名曲の数々を大切に歌い上げてきた“歌姫”シリーズ。その第3弾は、今年でデビュー20周年を迎える中森明菜の歌を集めたセルフ・カバー集『Akina Nakamori~歌姫ダブル・ディケイド』。年齢を重ねた今、遠い日の自らを愛しげに見つめるような艶やかで温かな歌声が心地よい。明菜の歌を誰よりも深く愛しているのは、きっと明菜自身なのだ……。

――デビュー20周年の年を締めくくるのがセルフ・カバー集とは、心憎い演出。
中森明菜(以下A)▼でもね、この企画が上がったのは9月の中旬なんですよ。

――緊急企画!?突然、ひらめいた?
A▼はい。元々、年末はオリジナルのアルバムを出す予定だったんです。
でも、夏のコンサートが終わって少し時間をいただいたときに、これまで自分の歩いてきた道をもう1回振り返っていて……『ふと「あ、自分の歌をうたい直す“20周年”をやりたいな」と。
で、やるんだったら絶対に今年の、この20周年記念の勢いの中で出したかったんです。
年を越してお祭り騒ぎを引きずっているのも、よくないし。
来年になったらできない企画だと思ったんです。それで、ものすごいスケジュールでバタバタッと動き始めて。
私もスタッフの方々も大変でしたけど、いいものが出来ました。


――セルフ・カバーするにあたって、いちばん大切にしたことはなんですか?
A▼元の歌が持っている、絶対に大切にしなくちゃいけない部分ですね。
ほかの方の歌でもそうなんですけど……よく聴いていた歌って、それを聴いたときの思い出も同時にインプットされていますよね。
その歌を自分で口ずさむときにも、元の歌と同じ歌い回して歌いますよね。
でも歌い手って、キャリアを重ねていくと、どうしても崩して歌ってしまいがちじゃないですか。


――そうですね。それ、場合によってはすごく違和感があったりするんですよね。
A▼そうそう。それが私、絶対イヤなんですね。
だから、その曲を聴いたときの思い出はきちんと残しつつ、なおかつ違う世界が広がっていく……っていうのが、私にとってリメイクの絶対条件なんです。
大前提として、みんなの思い出になっている当時の“中森明菜”を忠実に守りつつ、それを今の中森明菜なりに歌う……という。
だからアレンジでも、そこはこだわってお願いしたんです。
強調されているメロは絶対に崩さない。
だけど、違う世界に飛んていけるようなアレンジにしてほしい、と。


――変わるところは大胆に変わっているのに、不思議と“壊されている”っていう印象はないんですよね。
A▼そうですか?だったらよかったぁ。
“歌い方を変えたくない”っていうのは、歌い手としての気持ちでもあるけど。
同時に、聴いてくれている人と同じ側にいるもうひとりの私が「そんな歌い方、イヤ」とか思っていたのかもしれないです。


――私たちと同じように、これらの歌を大切な思い出にしてきた明菜さんとして?
A▼そう。“みんなが、みんなが”とは言ってるけど、実は自分自身がいちばん、一緒に思い出を歩んてきた歌を崩したくないと思っているんでしょうね。
レコーディングで歌っていても、自分の中にいる別の私が「その声、ヘン」とか、はねつけていたこともあるかも(笑)。
それで難しかったのかな。
歌、すっごい苦労したんですよ。


――長く歌ってきた曲ばかりなのに。
A▼3日もかかった曲もあったんですよ。
歌い方を変えないで、なおかつそこに今の自分を入れていこうと思うと……どう歌っていいのか、全然わからなくなってしまって。
もう、イヤになっちゃった(笑)。
自分の歌だからって、もう、これは、みんなの“歌”だから、自分だけの自由にできるものじゃないんですよ。


――例えば、それぞれの曲が発表された頃から現在まで、たぶん、私たちの中でも勝手に歌が育っているんでしょうしね。歌の主人公も、いつの間にか年齢を重ねてオトナになっていたり……でも、今回のアルバムで、その“成長”した主人公たちに初めて出会えた気がします。
A▼そう思います?うれしい。
ずっと当時のシングルを聴いていなくても、たぶん、イメージの中で歌は勝手に育っていくんですね。
だから今、例えば……もしカラオケで「北ウイング」を歌ったら、当時の“明菜ちゃん”の「北ウイング」ではなくて、自然と、成長した今の「北ウイング」を歌っていると思うし。
私の中にも、そういう感覚はあるんです。
だから、みんなの中で育った歌と、今回、私が歌っている歌が同じように育ってきてるといいなぁ。


――このアルバムが、もし自分のイメージとあまりに違っていて「こんなコに育てたおぼえはない!」みたいな歌だったらショックだったかも(笑)。
A▼あははは!その感じ、わかる!
「なんでこんなコに育っちゃったの?」みたいな歌だったら、ねぇ。ヤですよねえ。


――そうじゃなくて、うれしかったです。
A▼うん、素直なコに育ちました(笑)。

――と、当時の思い出も大切にしつつ、同時にジャケットに象徴される“オトナの明菜”の世界が繰り広げられていますね。
A▼このジャケットも、私の持っているアルバムのイメージを表現したものなんです。
ちょっと60年代的なイメージ。
生の歌を聴くには、すごく高級なクラブに行って、高いお金を払って……という時代。
でも、そこはステージもほんの10センチぐらいの高さで、憧れの歌手がすぐ身近で歌いかけてくるような、そんな空間なんです。
だから聴きに行く人もうんとおしゃれをして、ね。
ライブハウスやコンサートとは違った雰囲気の中で歌を聴いている、そんなゴージャス感を出したくて。
だから、音の録り方にもすごく凝ったんです。
ひとりでお部屋で聴いたら、同じ小さな空間で、ホントにすぐ隣で私が歌っているような感覚で聴こえてくると思いますよ。


――超ゴージャスだけど、温かい雰囲気。
A▼“ひとつの部屋に一緒にいる”っていう感覚は、コンサートでもディナー・ショーでも絶対に作れないから。
うんと近い、同じ目の高さで歌っているような感じを実感してもらいたくて。


――ジャケットに描かれている世界に、自分も観客として参加している気分になる。
A▼そうなんです。今回、映画を作るような感覚で作っていって。
同じ部屋にいて、クラブ歌手の明菜が歌いかけてくるなぁ……と思っていたら、それは映画のワン・シーンで。
自分はエキストラなのか、主演なのか、明菜とラブ・シーンをする役者なのか(笑)……それはわかんないけど、気がついたら自分も映画の中にいる感覚になるような演出をしたいと思ったんです。


――全体のトータル感は、その映画的な演出の効果なんでしょうか?
A▼たぶん、そうだと思います。
それぞれの曲があまりにバラバラなので、無理にひとつの箱に入れようとしても絶対に収まらないんですよ。
でも映画だったら、なんでもありでしょ?
悲しい場面もあるし、イケイケの楽しい場面もあるし……。


――聴く人も、それぞれの思い出を映画化するように聴いたりして。
A▼その思い出を、うんとデコレーションして、カッコよく演出して聴いてください。
自分も主演女優になりきって、ただの雨もキラキラ光ってる……みたいな(笑)。


――多くの曲を“新曲”として楽しむ、若いファンの方もいるでしょうね。
A▼そうですね。ここに入っている曲をずっと大切に聴いてきてくれた人に喜んでもらえるのもうれしいけど。
初めて聴いた人が「これ、昔の歌なの?カッコいいじゃん」って言ってくれたらね(笑)、それもすごくうれしいですよね。


――今回、明菜さんの曲は10年20年経っても古くささを感じさせないものが多いなぁと思いました。いかに当時から、時代を先取りした冒険とか、新しい挑戦をしてきたかってことを再認識しました。
A▼自分ではあんまり意識していなかったけど、そうかもしれないですね。
昔から、まだ誰もやっていないことを早め早めにやっちゃいたいと思うヒネクレ者タイプだったから。
そういう冒険も、少しはスパイスとして残っているのかな。


――リメイクの作業をしながら、そういうことも実感したのでは?
A▼いや、全然。レコーディング中はむしろ「古っぽくない?私、ダサくない?」とか言っていましたから(笑)。

――ははは。「TATTOO」とか「ミ・アモーレ」なんて、まさに今、はやっている音楽の雰囲気を持っていますよねぇ。
A▼たしかに当時は「やること早すぎるよ、全部」って言われてて、いちばん言われたのが「TATTOO」でしたね。
でも、自分では本当に無我夢中でやっているだけで、よくわからなかったんですよ。
つねに「次、どうしよう?」って考えながら、一瞬も休むヒマがない状況の中で次々と新しいことをやっていたような……。


――でも今年の明菜さんも、ちょっと働きすぎ!と思いましたけど。
A▼昔に比べたら、全然おっとりしてますよー。
もう、昔の中森明菜さんには頭があがりません(笑)。。
この人、すごいなーって思いますよ。
今になって、あの頃はよくあれだけいろんなアイデアが出たなぁって感心します。
楽曲ひとつに対して、衣装は2~3個考えなくちゃいけない、振りつけも考える……すべての演出を考えるわけですから。
それを毎回、全然違う楽曲の中でよくぞいろいろ考えられたなぁと。
今の自分も、もっと頑張らないといけないなと思わされますね。


――でも、そうやって無我夢中で試行錯誤していた時期の経験も、いろんな栄養になって現在まで繋がっているんでしょうね。ここまでの明菜さんの歴史が、最近の歌の中には自然に染みこんでいる気がします。
A▼そうですね。いろいろ悔しかったことも、失敗もありましたけどね。
私に限らず「世界で私がいちばん不幸」とか「なんてツイてないんだろう」とか、そんなふうに思ってしまう経験ってありますよね。
でも、それも大事な経験なんでしょうね。
その経験があるから、二度と同じ失敗をしないですむし、今、こうやって楽しく話をしていられるんだなって思うし。
自分の弱いところを神様が見て、「オマエはこれをやっておかないと、このあともっと苦しい思いするから。今のうちに勉強しておきなさい」ってことだったのかな。
経験って、いいことも悪いことも、全部大切なことなんだなって、最近だんだんわかってきました。
あんまりわかりすぎちゃうと、歳をとったような気がするからイヤなんですけど(笑)。


――人生、遠回りはないですね。だから明菜さんの歌を聴くたび、すごく励まされるのかもしれない。
A▼ありがとうございます。でも、私に限らず、誰でも一緒ですからね。
そういう、悲しかったり、後悔したりの経験は。


――来年、デビュー21年目の中森明菜からは何が出てくるんでしょう?
A▼今年は20周年記念ということで、ある種ワーッとお祭り騒ぎのように楽しんできましたけど。
今作を出して「今後の中森明菜って、どういう感じ?」ってことをあらたに問われると思う。
だから、まずはそういう期待に負けないオリジナル・アルバムを出したいと思います。
今回、これからも大切にしていかないといけないものがハッキリわかったし。
大切なものは持ち続けて、それプラス・アルファの自分を見せていければいいなと思っています。

コメント

  1. 初めてお会いしたのは、デビュー間もなくの大阪毎日放送、一目惚れ…
    叶わない憧れが始まりました!!
    生アキナは衝撃でしたよ!
    今も
    歌姫の称号は貴方の為だけ…
    ガッカリなんてするわけないやん
    生きざま、全て受け入れる覚悟で皆聞いてるで。
    なんて言ったらわかって頂けるか…
    答えはご自身のなかの声で
    いいです。

  2. 今朝ほど初めてこのアルバムを聴きました(遅っ)。このインタビューを読んで聴きたいと思ったのです。明菜の思いがびっくりするほど伝わってくる素晴らしい出来栄えでした。同じ目線の臨場感、ゴージャス感、明菜らしさを失わずしかし新しい感じ・・・。感動を覚えました。私も歌い方を崩したアレンジは嫌いなので明菜と同じ感覚だなあと嬉しくも思いました。明菜は、やはりファンを大事にする最高のアーティストですね。脱帽!

  3. まささん、いつも楽しませて頂いています。
    いっぱい語ってますね、このインタビュー。
    歌も楽しみですけど、屈託なくトークする
    明菜さんも好きです。

  4. まさ様、こんばんは。
    インタビューの長文記事、ありがとうございます。
    当時から時代の先をゆく明菜さんや楽曲に対する思いを読ませて頂いて改めて凄い方だと感じました。
    今、聴いても時代を感じさせないのは素晴らしい事だと思います。